最大積雪2.7m。コシヒカリの産地として知られる魚沼地方は、同時に世界有数の豪雪地帯である。杉の外壁、ドーム型の車庫、急勾配の切妻屋根。この豪雪地帯では、風土がデザインを育ててきた。この特徴的な土着性を持つ土地において、「いかに感傷的に擬態化することなく、むしろ積極的に解釈し直した土着的要素を設計するか」(ケネス・フランプトン)ということが問題となる。

施主からのリクエストの一つが重層的で複雑な家という、現地の切妻屋根と比較してみるならば反土着的な要求であった。従来の切妻が多用されている意味をを解釈し直すと、急勾配の片流れを組み合わせているということである。仮に屋根の途中で屈折があったり谷があったりすると積雪がそこに滞留し、家を傷める要因となる。そこで分節された小さい片流れを様々な方向に向けて重ね合わせ、軽やかでリズミカルな形状を考えた。積雪は屋根の上に張り巡らされた消雪パイプの水により合理的に流し落とされ、複雑に積層しあう屋根が雪国らしからぬ軽快さを感じさせる。外壁の2階には現地の杉板を縦張りし、1階には汎用的なガルバリウムを貼っている。部分的には土着的な屋根や杉外壁の作り方をしつつ、一方で現代的な屋根の組み合わせ方や材質を採用することで、緊張感のある建築が生み出される。室内は真壁を基本として柱梁を現し、複雑な屋根形状を室内からも視認できる。

1階には3世代共用のLDK、合計14畳の和室、祖父母の寝室とトイレ、浴室が計画され、メインエントランスとは別に、トレランを趣味とする施主のためのサブエントランスを設けている。このサブエントランスは土間との段差を無くし、将来的なバリアフリー化を念頭に置いている。北側のキッチンには大きな開口を設け、水田や周囲の山並みを常に感じられるようにし、南のLDKから和室にかけては長い縁側で来客との交流スペースとなっている。2階は子世代のサブキッチンとリビング、子どもたちの寝室、父母の寝室、ワークスペース、トイレ、シャワーブースが計画された。一階同様キッチンからは北側の絶景が一望できる。ワークスペースにはデスクと書棚を造作で作り、横長のピクチャーウィンドウから常に風景を感じながら仕事ができるスペースとなっている。

美しい景色を切り取るように配置された窓からは四季折々の自然の変化が感じ取られる。また、農家の納屋、続き和室、縁側、仏間に神棚などの現代住宅では切り捨てられがちな要素も積極的に採用している。大雪に埋もれる季節には、軽やかに積層する屋根たちがランドスケープの一部となるであろう。そして、この家は地域との親密性と開放性を具現化する建築となる。